岡山大学 理学部

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ラットが目を掻く際、「利き足」が存在

2022年10月24日

◆発表のポイント

  • ラットが目を掻く際、「右利き足」であることを明らかにしました。
  • 近年マウス脊髄でガストリン放出ペプチド(GRP)という神経ペプチドとその受容体が「かゆみ特異的伝達分子」として機能していることが報告されています。今回、顔面領域のかゆみは、延髄に存在するGRP系によって伝えられていることも特定しました。
  • 目からかゆみを伝える作用メカニズムを明らかにしたことは、花粉症などを含む目の難治性掻痒症に関する新たな治療法の開発にも貢献できるものと期待されます。

 岡山大学 学術研究院自然科学学域(牛窓臨海)の坂本浩隆 准教授(神経内分泌学)と、奈良女子大学 研究院生活環境科学系(生活健康学領域)の高浪景子 准教授(行動神経科学)(前・国立遺伝学研究所 助教)の研究グループは、ラットにおいてヒスタミンで両目を刺激した場合、目を掻くのは主に右の後足であること(すなわち、ラットが目を掻く際の「利き足」)を発見しました。さらに、近年マウス脊髄でガストリン放出ペプチド(GRP)受容体という神経ペプチドの受容体が「かゆみ特異的伝達分子」として機能していることが報告されていました。今回、顔面領域のかゆみは、延髄に存在するGRP系によって伝えられていることも特定しました。これらの研究成果は、2022年10月19日(00:01am 英国時間)にProceedings of the Royal Society B: Biological Sciences(英国王立協会紀要)にオンライン掲載されました。
 目のかゆみは、主に結膜の炎症によって起こる、とても不快な感覚です。身体の各部位から起こる皮膚のかゆみと異なり、目をこすることは良いことではなく、繊細な結膜上皮を損傷してしまう危険性があります。私たちは、身体のかゆみを伝える脊髄神経系と比較して、これまであまり研究されてこなかった目のかゆみ伝達の神経基盤を研究してきました。その結果、ラットにおいて両目を刺激された場合、目を掻くのは主に「右」の後足であること(つまり、ラットにおいて目を掻く際の足が「右利き」)を発見しました。
 げっ歯類において、身体の大部分からのかゆみ感覚には、脊髄・体性感覚系のGRP系が関与することが知られていますが、今回新たに、延髄・三叉神経感覚系のGRP系が、目から起こるかゆみ伝達に重要であることも明らかにしました。
 「GRP受容体発現ニューロン」に着目し、目からかゆみを伝える延髄・三叉神経感覚系におけるGRP系の作用メカニズムを明らかにしたことは、花粉症などを含む目の難治性掻痒症に関する新たな治療法の開発にも貢献できるものと期待されます。



図1 身体のかゆみは脊髄知覚神経系を介して伝えられます。一方で、目を含む顔面領域のかゆみは三叉神経知覚系を介して伝えられると考えられてきました。今回、脊髄(身体)・延髄(顔)レベル、両方に共通してGRP系が関与することを明らかにしました。



図2 (a) 生理食塩水(コントロール)またはヒスタミンをラットの目へ両側投与した。生理食塩水、またはヒスタミン投与後60分間の後足によるひっ掻き回数(b)、および時間(c)。
*P < 0.05 with Wilcoxon signed rank test.


◆研究者からひとこと

 私は右利きです。確かに何をするにもすぐに右手が出てしまいます。なんと!?目を掻く際、ラットも右利き(足)が多いということを知って大変驚きました。「そうかラット、お前もか?」と独り言を言いつつ、急いで論文を執筆したことが昨日のことのように思い出されます。本成果は、ヒトの「利き手」の神経基盤の解明と、その進化過程にもメスを入れることができるものと期待しています。
坂本浩隆 准教授

◆研究者からひとこと

 こすってはダメだと頭では分かっていても、私たちはかゆみを感じると目をこすって掻いてしまいます。特にこどもは、掻くことを止めることができません。これまで私たちは、目のかゆみを伝達する神経回路の解析を行ってきて、今回、実際に目のかゆみの伝達に三叉神経感覚系のGRP受容体が関与することを明らかにすることができました。ここから、将来、花粉症などの目のかゆみの治療法の開発に繋がることを期待しています。
高浪景子 准教授

■論文情報
論文名:Footedness for scratching itchy eyes in rodents
「げっ歯類が目を掻く際、利き足が存在」

掲載誌: Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences(英国王立協会紀要)
著者:Yukitoshi Katayama#, Ayane Miura#, Tatsuya Sakamoto, Keiko Takanami* and Hirotaka Sakamoto*(#同等貢献、*責任著者)
DOI:
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.1126


■研究資金
 本研究は、下記の支援を受けて実施しました。
・日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)(学術研究支援基盤形成)先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)16H06280研究分担者:坂本浩隆
・JSPS 科学研究費補助金 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化) 15KK0343 研究代表者:高浪景子
・JSPS科学研究費補助金 基盤研究(C)19K06475 研究代表者:高浪景子
・JSPS科学研究費補助金 基盤研究(B)21H02520 研究代表者:坂本竜哉
・JSPS科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)(シンギュラリティ生物学)21H00428 研究代表者:坂本竜哉
・鈴木謙三記念医科学応用研究財団 疾病別指定研究助成金 19-085 研究分担者:坂本浩隆

<詳しい研究内容について>
ラットが目を掻く際、「利き足」が存在


<お問い合わせ>
<研究に関するお問合せ>
岡山大学 学術研究院自然科学学域(牛窓臨海)
准教授 坂本 浩隆
(電話番号)0869-34-5210
(FAX番号)0869-34-5211
(メール)[email protected]
http://www.science.okayama-u.ac.jp/~rinkai/index.html

奈良女子大学 研究院生活環境科学系(生活健康学領域)
准教授 高浪 景子


<機関窓口>
岡山大学 総務・企画部 広報課

奈良女子大学 総務課 広報・基金係

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