超新星爆発起源ニュートリノ研究のための予備実験装置の完成
2013年10月23日
この度、超新星爆発起源ニュートリノ研究のための200トンガドリニウム水チェレンコフ検出器が完成したので報告いたします。本検出器の目的は主に二点あります。一つが、50000トン検出器スーパーカミオカンデで、宇宙が始まって以来起こった過去の超新星爆発からのニュートリノを近い将来に発見するための予備実験装置として、もう一つがベテルギウスなど極近傍の大質量星における超新星爆発からのニュートリノ信号を検出することです。本検出器の完成および今後の研究の展開について、日本物理学会(9月20—23日、高知大学)や国際会議(「TAUP(宇宙素粒子と地下実験物理国際会議、9月8—13日、モントレイ、アメリカ)」、「WIN(弱い相互作用とニュートリノ国際会議、9月16—21日、ナタル、ブラジル)」)で岡山大学の研究者が発表を行ないました。
本研究では、重い星の一生の最後に起こす超新星爆発(添付資料・注1)起源のニュートリノを観測することで、宇宙が始まって以降の星形成や、超新星爆発のメカニズム解明を目的とします。そのステップの一つとして、岐阜県の神岡地下施設内に200トンのガドリニウム水チェレンコフ検出器が完成しました。宇宙が始まって以来、京単位の星が超新星爆発を起こしたと考えられており、その際に放出されたニュートリノの探索はこれまでもなされてきましたが、未だ発見には至っておりません。しかしスーパーカミオカンデにおける感度は理論予想値に迫っており、世界初の発見に向けてスーパーカミオカンデの純水にガドリニウムを溶かすことが提案されています。(添付資料・注2)その予備実験として、200トンのガドリニウム水チェレンコフ検出器を地下施設内に設置しました。本検出器は直径6.5メートル、高さ6.2メートルの円柱形の水槽で、内部にスーパーカミオカンデで使われているのと同じ高感度の光センサー240本が設置されています。このセンサーの取り付けは岡山大学の研究者、大学院生が中心となり、東京大学、カリフォルニア大学などと協力してこの夏に1ヶ月をかけて行ないました。(添付資料・図2)すでに宇宙線信号の取得にも成功しており(添付資料・図3)今後は徐々にガドリニウムを溶かし、できるだけ早く本格稼働をさせる予定です。さらに本検出器ではベテルギウスのような極近傍の天体による超新星爆発からのニュートリノ信号も期待でき、それにより超新星爆発メカニズムの解明も目的としています。
本研究は岡山大学・素粒子研究室と宇宙物理研究室が、東京大学宇宙線研究所、東京大学カブリ数物連携宇宙機構などと共同で推進しています。
(添付資料)
(注1)太陽の8倍以上の重さを持つ大質量星で星の一生の最後に起こす大爆発を超新星爆発といいます。これまで超新星爆発からのニュートリノ信号は、1987年に大マゼラン星雲で起こった超新星1987Aによりカミオカンデ実験が観測した11個のニュートリノがあります。この功績により小柴昌俊氏は2002年ノーベル物理学賞を受賞しました。
(注2)通常の水チェレンコフ検出器はスーパーカミオカンデのように、超純水を用い、検出器に入ってきたニュートリノと水中の電子や原子核との反応により発生するチェレンコフ光と呼ばれる微弱な光を高感度光センサーである光電子増倍管で観測します。本研究では、水にガドリニウムを溶かした検出器を用います。ガドリニウムを溶かすことにより、超新星ニュートリノ信号の大部分を占める反ニュートリノ事象を効率よく捕えることが可能になり、大気ニュートリノなど他のニュートリノと容易に区別できることが期待されます。(図1)
(図1)ガドリニウム水チェレンコフ検出器の原理。時間差のある二つの信号を捕えることにより反ニュートリノを効率よく検出することが可能になる。
(図2)神岡地下施設に設置した200トンガドリニウム水チェレンコフ検出器
(図3)200トンガドリニウム水チェレンコフ検出器で捕えた宇宙線の信号
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岡山大学大学院自然科学研究科(理) 素粒子物理学 准教授
(氏名)小汐由介
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