岡山大学提案の海底地形の名称2件が国際的に登録
2013年11月22日
本学大学院自然科学研究科の山中寿朗准教授の研究グループは、先島諸島、多良間島沖北約60kmの海底に周辺海底からの比高約510mと235mの地形的高まりを発見したことから国際水路機関(IHO)およびユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)に名称を提案し、それぞれ「多良間海丘(たらまかいきゅう) (Tarama Knoll)」「多良間海陵(たらまかいりょう) (Tarama Hill)」として国際的に承認され、確定しました。
多良間海丘には海底熱水活動も発見され、熱水湧出域において広範囲に鉄酸化物を主体とする堆積物が分布していることを確認しました。海底地形の命名は、海底資源探査や火山防災の観点から、国益上の重要性を増大させると期待されています。
国際水路機関(IHO)およびユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)が共同で推進する GEBCO*1 指導委員会は、全世界の海底地形図(略称:GEBCO)を作成する事業の企画調整を行う専門家の委員会で、その下に、世界の海底地形名の統一を図ることを目的とした海底地形名小委員会*2 (SCUFN)が置かれています。
この度、第 26 回海底地形名小委員会が9 月 23 日から 27 日まで日本(東京)で開催され*3、世界各国から提案された海底地形名のうち48 件に名称が付与され、このうち、日本が提案したものは、20 件です。今回、国際的に承認を受けた日本の提案20件のうち先島諸島北方沖の沖縄トラフ南西に位置する2件「多良間海丘(たらまかいきゅう) (Tarama Knoll)」「多良間海陵(たらまかいりょう) (Tarama Hill)」の地形は、本学大学院自然科学研究科の山中寿朗准教授の提案によるものです。同小委員会の結果は、上位組織であるGEBCO指導委員会で 10 月 11 日に承認され、確定しました*4。多良間海丘には海底熱水活動も発見され、熱水湧出域において広範囲に鉄酸化物を主体とする堆積物が分布していることを確認しました。海底地形の命名は、海底資源探査や火山防災の観点から、国益上の重要性を増大させると期待されています。
この海域は、2004年に発表された海上保安庁発行の「海洋情報部研究報告」第40号で海底火山として報告されていた地形ですが、この報告の元となった海底地形図の解像度が低く、一つの海丘「多良間海丘」として認識されていました。しかし、山中准教授らにより2009年に実施された(独)海洋研究開発機構所属の調査船「なつしま」による本海域における詳細な海底地形図作成および無人探査機「ハイパードルフィン」による潜航調査から、実際は二つの独立した地形であることが明らかになり、今回の提案に至りました。詳細な地形調査に基づく海底地形の命名は、海底資源探査や火山防災の観点から、国益上の重要性*5を増大させるものと思われます。
同海域は2005年に海洋研究開発機構所属の調査船「淡青丸」の調査により、海底熱水活動の存在する可能性が角皆潤・名古屋大学教授(当時、北海道大学准教授)により指摘されており、山中准教授も当時からこの海域の調査に加わっておりました。2009年に行われた調査は、実際に熱水活動域を特定する目的で、岡山大学の山中准教授を代表に、海洋研究開発機構、高知大学、東京大学、九州大学などからなる研究グループ*6により実施されました。
2009年以降実施された同海域における潜航調査から、多良間海丘は最も水深の浅い山頂部の水深が1,490mであり、付近の海底からの比高が510mのほぼ円錐形の海丘であることがわかりました。また、山頂付近には周囲の海水温度に比べ約20℃高い熱水がしみ出す場所があり、その周辺には広く鉄(鉄酸化物)を主成分とした赤褐色の泥が堆積している様子が観察されました。この鉄酸化物を主体とする堆積物は海洋研究開発機構の牧田寛子博士らによると、厚さ30cm程で百数十m四方に渡って分布し、熱水活動に関連したこの様な大規模な鉄酸化物の堆積が確認できるのは沖縄トラフでは今のところ多良間海丘だけです。この他、活発な熱水噴出活動が見られる海底に密集して生息することで知られるオハラエビやハイカブリニナ科巻貝が本海域で見られたこと、活発な熱水噴出に由来すると考えられる海水の濁り(熱水プルーム)が頻繁に広範囲で確認されたことなどから、多良間海丘における今後の調査でチムニーを伴う活発な熱水活動域が発見される可能性も高いと考えられます。
活発な熱水活動によって形成される熱水鉱床だけでなく、多良間海丘にみられるような鉄酸化物は一般的にレアアース元素(REEs: Rare Earth Elements)と呼ばれる一連のレアメタルを吸着・濃集することが知られているため、海底におけるREE鉱床の成因研究の場として、また我が国に胚胎する海底資源量の正確な推定に貢献できる、重要な地形を発見し国際的に認められる名称が付与できたと言えます。
*1 太洋水深総図(GEBCO) General Bathymetric Chart of the Oceans
http://www.gebco.net/data_and_products/undersea_feature_names/
*2 海底地形名小委員会(SCUFN) Sub-Committee on Undersea Features Names
http://www.gebco.net/about_us/committees_and_groups/
*3 IHO-IOC GEBCO Sub-Committee on Undersea Feature Names (SCUFN), 26th SCUFN Meeting 23rd to 27th October 2013 (Tokyo, Japan) http://www.iho.int/mtg_docs/com_wg/SCUFN/SCUFN26/SCUFN26Docs.htm
*4 海上保安庁プレスリリース http://www1.kaiho.mlit.go.jp/
*5 海底地形名命名の国際的な取り組みとその意義 http://www.sof.or.jp/jp/news/151-200/187_1.php
*6 本海域調査は、(独)海洋研究開発機構の調査船共同利用プログラムの採択を受け、調査船「なつしま」および無人探査機「ハイパードルフィン」を利用して実施されたもの。岡山大学の山中准教授を課題提案者とし、海洋研究開発機構の布浦拓郎主任研究員、牧田寛子技術研究副主任、渡部裕美研究員、野口拓郎博士、東京大学の中村謙太郎准教授、砂村倫成助教、高知大学の岡村慶准教授、九州大学の石橋純一郎准教授、東京工業大学の吉田尚弘教授、岡山理科大学の豊田新教授、琉球大学の土岐知弘助教の協力によって実施。なお、本調査は、科学研究費補助金(新学術領域)「海底下の大河」の補助を受けて実施されました。
図1 多良間海丘(Tarama Knoll)および多良間海陵(Tarama Hill)の位置(背景地図:Google Earthより)
図2 多良間海丘(Tarama Knoll)および多良間海陵(Tarama Hill)の地形
図3 上:多良間海丘で発見された鉄酸化物を主体とする堆積物の様子。下:一部では写真に見られるような指のように海底から突きだしたチムニー状の鉄酸化物も見られた。(写真:海洋研究開発機構提供)
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